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2021 06/10

広島・赤の検証 ~緒方孝市著『赤の継承 カープ三連覇の軌跡』制作ドキュメント 「苦い敗戦も全部書く――緒方孝市は逃げなかった」③


引用元

 2015年からカープの指揮官を務め、2016年から球団史上初となるリーグ3連覇を成し遂げた緒方孝市氏。本稿では、緒方氏の著書「赤の継承 カープ三連覇の軌跡」の構成を担当した清水浩司氏に、書籍制作を通して見えた“闘将”の横顔を語ってもらう。

◆第3回・緒方孝市は負け試合を書くことから“逃げなかった”

 監督という職を離れた緒方さんは、これまでチームのために押し殺してきた感情を解き放つように、自らの過去について語りはじめた。それは本当に“怒涛のように”という表現がぴったりで、言葉は尽きることなくあふれ出た。緒方さんはこの本を33年間に渡るカープでの日々、そして少年時代からはじまる野球漬けの人生の集大成と位置付け、情熱を持って本の制作に没頭していった。

 話は少し脱線するが、ここで私の役割というものを説明しておきたい。私は今回、編集者という立場で本書の制作に関わった。編集者が何をするのかというと、この本を具体的にどんな本にするか内容を決めるのである。そのために私は緒方さんにヒアリングを繰り返し、「こういうテーマで、こういう流れで話を進めていきましょう」と全体の構成を練ったり、「その部分もっと詳しく書きましょう」と提案したりした。

 そんな編集者の仕事として、ひとつ大きいのは「著者が作りたい本を作る」というものがある。今回の場合は、緒方さんが作りたい本についてイメージを聞き、それを実現するよう技術的サポートを行う。どんな本を作りたいか、お会いして最初の打ち合わせで尋ねたところ、座右の銘である「出会いに感謝」を伝える本にしたいという答えが返ってきた。鳥栖高校時代の恩師である平野國隆監督、現役時代に自分を鍛えてくれた内田順三コーチ、山本一義コーチ、三村敏之監督……これまで自分を育ててくれた数々の人物に光を当て、そんな出会いによって自分は作られたと感謝を捧げる内容にしたいと話された。私はそれをまず、本書の柱のひとつとした。

 しかし、その一方で編集者は著者の方だけを向いていれば良いわけではない。編集者はある意味“最初の読者”であり、多くの読者が緒方さんに何を書いてほしいと思っているのか、それを伝える役割も課されている。緒方さんの書きたいことを支えながらも、読者代表、ファン代表として「これについて書いてください」「このときのことを教えてください」とお願いしなければならないのだ。それに関して、私と緒方さんの間でバトルが発生することも数多くあった。

 たとえば私がファンとして知りたかったのは、カープにとって重要ないくつかの試合の舞台裏である。この試合に対して、どう臨んだのか? ここでどうしてああいう采配を振ったのか? そのとき監督として何を考えていたか?……

 たとえばそれが25年ぶりのリーグ優勝を決めた2016年9月10日の巨人戦(東京ドーム)のような喜ばしい試合であれば、もちろん筆は進むだろう。しかし真実を知りたい試合というのは、えてして勝ち試合だけではなかったりする。

 たとえばリーグ最終戦の1安打敗戦でクライマックス・シリーズ進出の夢が断たれた監督就任1年目、2015年10月7日の中日戦(マツダスタジアム)。罵声が飛び交う中で何を思っていたのか?

 たとえば2連勝のあとの4連敗で敗退してしまった2016年の日本ハムとの日本シリーズ、その最終戦で継投が遅れたのはなぜだったのか?

 たとえば“甲斐キャノン”の名を一躍全国区にした2018年のソフトバンクとの日本シリーズ、シリーズの分かれ目はどこにあったと考えているのか?……

 私はこうした試合の真実が知りたいと思い、それについて書いてほしいと緒方さんに迫った。何度も何度もしつこく迫った。

 思えば残酷な話である。監督として負け試合など思い出すだけで不快だろうし、それを書くというのはある意味、治りかけたかさぶたを剥がして、再び傷をえぐるようなものである。

 しかし私はそれをお願いした。多くの読者もそれを求めていると信じ、緒方さんにそれらの試合と改めて向き合ってもらうよう依頼した。

 そして数日後、緒方さんから文章があがってきたとき、私は打ち震えた。以下に転載するのは、2016年の日本ハムとの日本シリーズ第6戦に対する記述である。

 この年の日本シリーズに関しては、負けたことは自分とチームの力量のなさだと受け止めているが、かといってすべてが悪かったかといえばそうでもないと私は思う。~略~

 ただし、このシリーズでは非常に悔しい経験をした。それは私にとって、深く記憶に残るものである。

 それは最終戦となった第6戦のことだ。試合は4‐4の緊迫した状態で終盤に入っていた。われわれは3連敗したことで、この試合に負けたら日本シリーズは終わってしまうという瀬戸際に立たされていた。

 8回表、マウンドに送ったジャクソンは2死を取った後、3連打を浴びて満塁のピンチを迎えた。そこで中田翔にストレートのフォアボールを与え、押し出しで4‐5と日ハムに勝ち越しを許してしまった。

 確かにそれは痛恨の失点ではあったが、しかし1点差であればまだよかったのだ。ここで踏ん張ることができれば、こちらには8回裏、9回裏と2回の攻撃が残っている。挽回のチャンスはあったのだ。

 だが、次の打席に立ったのは予想もしていない男だった。その前の回、マウンドに上がったばかりの外国人セットアッパー、バース。彼がそのままバッターボックスに立ったのである。そのことでわれわれもジャクソンも混乱した。ついさっきまでネクストバッターズサークルには大谷(翔平)が待機していた。誰もが大谷が代打で出てくるとばかり思っていた。

 しかし大谷はベンチに引っ込んで、バースがそのまま打席に立った。一体何が起こっているのか? DH制で打撃の機会のないパ・リーグの投手が打席に立つというのはどういうことか? 当然ながら中継ぎ投手の打撃データなど、カープのスコアラーは持っていない。

 そのバースにセンター前に弾き返された。タイムリーヒットを打たれた。それはDH制下の投手による、まさかの痛打だった。

 相手の栗山英樹監督は大谷を出すと見せかけて投手にそのまま打たせるという意外性に満ちた作戦を決行したのだった。それはこちらの動揺を誘い、さらにその外国人投手が快打を打つことでこちらの心を砕いた。

 ベンチから見ても、マウンドでジャクソンがショックを受けているのがわかった。しかしそこで代えようにも、次の投手の準備ができていなかった。この回はジャクソンに託すつもりで送り出したため、投手交代の想定をしていなかったのだ。

 もちろん、あそこは準備ができていなくても、無理にでも別の投手に代えなければならない場面だった。ジャクソンはガックリきていたし、完全に気落ちしていた。だが、私も張り詰めた糸が切れたような状態になっていた。投手に打たれて追加点を取られてしまう展開に、心が追い付いていなかった。頭が真っ白になって、思考が途切れてしまった。あの瞬間、私の中でどこか勝負をあきらめてしまったところがあったのかもしれない。

 そしてマツダスタジアムが大きな悲鳴に包まれる中、レアードのグランドスラムがレフトスタンドに突き刺さった――。

――『赤の継承 カープ三連覇の軌跡』171ページ

 この試合のことはよく覚えていた。日本一を目指した戦いの最終戦、刀折れ矢尽きたクライマックス。それをここまで詳細に書く、しかも予期せぬ展開に頭が真っ白になって、「どこか勝負をあきらめてしまったところがあったのかもしれない」という正直な反省までさらすというのは、なかなかできることではない。

 これを筆頭に、私は緒方さんに数々の難題を突き付けた。「どうして日本一になれなかったのか?」という理由についてもしつこく尋ねたし、「何が足りなかったと思うか?」という質問も繰り返した。監督最終年の2019年に起きた2つの事件――緒方さんが野間峻祥選手に対して起こした事件とバティスタ選手の離脱についても、「できれば書いてほしい」と引かなかった。

 その結果が、この本である。

 緒方さんは逃げなかった。

 自分が書きたくないこと、答えたくないこと、思い出したくないことでも避けることなく、事実と向き合い、それを言葉に換えていった。それは辛い記憶を今一度呼び覚ます、身を切る行為だったに違いない。

 だからこそ私は非情に徹した編集者として、緒方さんがそこまで真摯に臨んでくれたこの本の重要性を、多くの人に訴えなければならないのである。

<最終回へ>

プロフィール
しみず・こうじ●作家・編集者・ライター。2019年、小説『愛と勇気を、分けてくれないか』(小学館)で広島本大賞受賞。野村謙二郎氏の著書『変わるしかなかった。』(KKベストセラーズ)に続き、前カープ監督・緒方孝市氏初の著書『赤の継承 カープ三連覇の軌跡』(光文社)の編集・構成も手掛ける。現在広島を中心に、執筆活動以外にもテレビコメンテーター、ラジオパーソナリティなど多岐に渡る活動を展開する。

書籍紹介

緒方孝市『赤の継承 カープ三連覇の軌跡』(光文社)

広島カープを25年ぶりの優勝、リーグ3連覇に導いた闘将が、これまで語られなかった胸の内を著した一冊。カープはなぜ優勝することができたのか? 監督に必要な資質とは何か? そして日本一になるために足りないものは何なのか?――カープ第二期黄金時代と呼ばれる緒方監督期の5年間を詳細に追いながら、「監督論」「育成論」「組織論」など自らのメソッドも語り尽くす。カープファンにもビジネスマンにも役立つこと必至の話題作!

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