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2021 06/10

広島・赤の検証 ~緒方孝市著『赤の継承 カープ三連覇の軌跡』制作ドキュメント 「“寡黙”は監督として創り上げた性格だった」①


引用元

 2020年3月17日、新型コロナウイルスの広がりはすでに社会問題となっていたが、それがどれだけシリアスなものかまだ本当のところはわかっていなかった頃、私は広島のホテルの一室でかつてない緊張と共に一人の男性を待っていた。

 これからここに緒方さんが来る……。

 その日は私が書籍の制作を担当させていただく緒方孝市さんとの初顔合わせの日だった。

 数カ月前、出版社の方から緒方さんの本の構成をやらないかと連絡を受けたとき、私はどうしても自分の手でその本をつくりたいと思った。25年ぶりのリーグ優勝にチーム初の3連覇、黒田博樹・新井貴浩両選手の復帰、「カープ女子」「神ってる」という流行語まで生み出した人気ぶり……緒方さんが監督を務めた5年間は言うまでもなく広島東洋カープというチームにとって夢のような季節であり、それは同時に広島という街にとっても特別な時期だった。その劇的だらけの日々を、優勝の最大の立役者の書籍をつくることで一本の物語に集約できる。それは広島で暮らすライターにとって本望と呼べる仕事であり、この本の制作だけは誰にも渡したくないと意地汚くも思うほどだった。

 しかし引き受けたはいいが、私には同時に不安もあった。

 はたして緒方さんは本の制作に積極的に関わってくれるのだろうか? ……。私はこれまでいくつかの本を制作してきたが、ひとつ確実に言えるのは「著者に熱意のない本は、いくらこちらに熱があっても決して面白い本には仕上がらない」ということである。本づくりにおいて主役はあくまで著者であり、編集者の役割は著者が伝えたいことの技術的なサポートにすぎない。だから著者の言いたいことが凡庸であれば本は凡庸なものになるし、「これを伝えたい!」「これを読んでもらいたい!」という気持ちがなければ本の持つエネルギーも弱いものになってしまう。編集者は本に化粧を施すことはできても、その本質については決して手出しはできないのである。

 緒方さんは本の出版を引き受けたわけだから、熱意がないわけではないだろう。しかし世の中にはマネジャーや周囲の人にそそのかされて渋々オファーを了解したという人もまれにいる。

 もしも緒方さんが積極的ではなく、取材を面倒に感じている方だったらどうしよう……。

 そう不安になってしまうのには、理由がないわけではなかった。というのも監督時代、緒方さんがマスコミに対してあまり積極的な態度をとっていなかったことを私は知っていた。テレビでインタビューに答えて長々としゃべっているような映像など見たことがないし、印象としてはかなり寡黙。そして闘将と呼ぶのが相応しいピリピリした雰囲気……私にはむしろ緒方さんはメディアに対して壁をつくっているように感じたし、どう見ても話すことや伝えることが好きなようには見えなかった。

 お会いしたはいいが、何もしゃべってくれなかったらどうしよう。言いたいことなんか別にないと突き放されたらどうしよう……考えれば考えるほど不安は尽きず、緒方さんと対面する前の晩、私は緊張で眠れなかった。

 しかし、私の予想は大きく裏切られた。

 ホテルの部屋で緒方さんは自分がどんな本をつくりたいか、熱い口調で語られた。ビシッとスリーピースを着込んだ緒方さんは見慣れたユニホーム姿と違ったが、そこにいたのは私がテレビで見ていた、人を寄せ付けないオーラを出していた監督の姿とも異なるものだった。

 そして緒方さんの口から意外な一言が発せられた。その瞬間、私は「えっ!」と驚いたし、この人の話をもっと聞きたいと思った。同時に編集者の性として「この本は絶対面白いものになる」と確信した。

 その部分を緒方さんは著書の中でこう表現している。

 たとえば監督時代、私はマスコミと一定の距離を保つようにしていたが、そういう姿を見て私のことを無口で不愛想、気難しい人間だと感じた人が多かったようだ。確かに私は陽気でおしゃべりなタイプではないが――そういう意味では寡黙なイメージの強かった三村監督と近いかもしれない――それは性格的に人見知りしてしまうというだけであって、別に笑わないわけではないし冗談が嫌いなわけでもない。

 しかし監督を務めるとなると話は別である。私が怖れたのは取材などで必要以上にチームについて話すことで、相手に情報が渡ってしまうことだった。現代の野球は高度な情報戦と書いたが、そうであるならばこちらの手の内はなるべく向こうに見せたくない。私が上機嫌なのか、はたまた動揺しているのかといった本音もポーカーフェイスで知られない方がいい。

 その結果、私はマスコミに対して極力情報を出さないようにした。緒方孝市という人間は近寄りがたいキャラクターであるように振る舞おうとした。あれは勝負の責任を背負う組織の長だからこそ創り上げた、職業上のスタイルなのである。

 だからこの本を読んで、あの緒方がここまで赤裸々に、雄弁にチームの内実を語っているということに驚く人もいるだろう。本来、私は無口でもなんでもないのだ。監督という職務を終えた今、やっと普段の自分に戻れたというだけである。

――『赤の継承 カープ三連覇の軌跡』156ページ

 緒方さんはわれわれ制作陣に、自分は別に無口で不愛想な人間ではないと告げたのである。近寄りがたいキャラクターのように見えたのは、監督として情報を外に漏らさないため、わざとそう見せていたのだと話したのである。

 だとしたら味方であるはずのカープファンも含め、私たちは緒方さんの策略によって見事にあざむかれていたということになる。誰も知らない真の緒方孝市は、われわれが想像もしなかったまったく別の場所にいたということになる。

 あれがポーズであるならば、本当はその裏で何を考えていたのか? それ以外にどんな戦略を仕掛けていたのか? 一体この人はどれだけ自分の感情を抑え込んできたのか?……緒方さんに聞きたいことは次から次へと出てきたし、その告白を裏付けるように、緒方さんは自身の野球観や野球少年だった過去について堰を切ったように語りはじめた。

 あの真っ赤に燃える日々を、もう一度、改めて“検証”する――それが私と緒方さんの長い旅路のはじまりとなった。

(第2回に続く)

プロフィール
しみず・こうじ●作家・編集者・ライター。2019年、小説『愛と勇気を、分けてくれないか』(小学館)で広島本大賞受賞。野村謙二郎氏の著書『変わるしかなかった。』(KKベストセラーズ)に続き、前カープ監督・緒方孝市氏初の著書『赤の継承 カープ三連覇の軌跡』(光文社)の編集・構成も手掛ける。現在広島を中心に、執筆活動以外にもテレビコメンテーター、ラジオパーソナリティなど多岐に渡る活動を展開する。

書籍紹介
緒方孝市『赤の継承 カープ三連覇の軌跡』(光文社)
広島カープを25年ぶりの優勝、リーグ3連覇に導いた闘将が、これまで語られなかった胸の内を著した一冊。カープはなぜ優勝することができたのか? 監督に必要な資質とは何か? そして日本一になるために足りないものは何なのか?――カープ第二期黄金時代と呼ばれる緒方監督期の5年間を詳細に追いながら、「監督論」「育成論」「組織論」など自らのメソッドも語り尽くす。カープファンにもビジネスマンにも役立つこと必至の話題作!

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